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仙台高等裁判所秋田支部 昭和41年(行ケ)2号 判決 1966年6月22日

原告 高橋繁雄

被告 青森県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「昭和三八年四月三〇日執行の弘前市議会議員一般選挙における当選の効力に関する審査申立に対し、被告が昭和四〇年一二月二一日なした裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

原告は請求原因として、

「一、被告選挙管理委員会(以下単に被告委員会と称する。)が前掲の裁決するまでの経過

1、昭和三八年四月三〇日弘前市議会議員の一般選挙(定数三六名)が執行され、立候補者五七名中原告が三六位最下位当選人となり、訴外賀山健三が三七位次点者、同石山栄が三八位次次点者となつたが、同年五月七日右賀山健三側選挙人高谷進外二名から異議の申出がなされ、弘前市選挙管理委員会が調査の結果、得票順位は三六位原告、三七位石山栄、三八位賀山健三と順位に変更があつたが、最下位当選人である原告の当選の効力に影響がなかつたので、同委員会は同年六月五日右異議の申出を棄却する旨の決定をなした。

右決定に対しこれを不服とする前記異議申出人らは同年六月二四日被告委員会に対し審査申立をなし、被告委員会が投票を調査した結果、弘前市選挙会の決定の通り三六位原告、三七位賀山健三、三八位石山栄となつたが、これも最下位当選人の当選には影響がなかつたので被告委員会は同年八月二八日審査の申立を棄却する旨裁決した。

右裁決に対し石山栄(補助参加人藤田武雄)から同年九月二五日被告委員会を被告(補助参加人賀山健三)として、仙台高等裁判所秋田支部に訴訟が提起され(同支部昭和三八年(ナ)第三号)審理の結果、三六位賀山健三、一三二一・九二一票、三七位高橋繁雄一、三二一票、三八位石山栄一、三二〇票であるとの理由で、同支部は昭和四〇年一月二五日被告委員会のさきになした審査申立を棄却した裁決を取消す旨の判決をなした。これに対し右原、被告双方上告の結果、最高裁判所は昭和四〇年一一月三〇日上告棄却の判決の言渡をなし、前記秋田支部の判決は確定した。(以下単に確定判決と称する。)

2、これより先前掲弘前市議会議員一般選挙において二二位に当選した小山内淳四郎が昭和三八年六月一四日死亡したので、同市選挙会が同年七月五日当時(前記市選管の決定による)の次点者三七位石山栄を繰上補充の当選人と決定した。

これに対し賀山健三から同年七月一八日異議の申出がなされ、弘前市選挙管理委員会が同年八月一五日右申出を棄却したので、同人はこれを不服として同年九月三日被告委員会に審査申立をなし、被告委員会は審査の結果同年一〇月九日右申立を認容する裁決をなした。

右裁決に対し出訴がなかつたので、弘前市選挙管理委員会は同年一二月二七日石山栄の繰上当選を無効とし、同市選挙会は賀山健三を繰上補充の当選人とする更正決定をなした。

3、しかして原告は以上の各異議申出及び審査申立に関与せず、訴訟にも参加する機会がなかつたので、判決に影響を及ぼすことのできる防禦の方法を提出することができなかつたものである。

二、被告委員会の裁決

以上の経過をたどつて、被告委員会は昭和四〇年一二月二一日さきに審査申立人高谷進外二名からの審査申立につき同委員会が昭和三八年八月二八日なした「審査申立を棄却する。」旨の裁決を取消し、改めて左記主文の裁決をなし、これが同日公示せられた。

主文

一、昭和三八年四月三〇日執行の弘前市議会議員一般選挙の当選の効力に関する異議の申出に対し弘前市選挙管理委員会が同年六月五日なした異議申出棄却の決定は取消す。

二、前項の選挙において当選人と決定した高橋繁雄の当選を無効とする。

三、右裁決に対する不服の理由

1、被告委員会の裁決は公職選挙法第二一九条において準用する行政事件訴訟法第三三条によつたものであることは明らかである。

しかし本件のような取消判決の効力について準用されるのは行政事件訴訟法第三三条第一項のみであつて、第二項及び第三項は準用がないものと解すべきである。即ち、本件のような当選訴訟においては判決の結果は同条第一項により関係行政庁を拘束するので、公職選挙法第九六条に基いて弘前市選挙管理委員会が選挙会を開いて当選人を更正決定すべきである。しかしてこの場合選挙会としても、仙台高等裁判所秋田支部の確定判決に拘束され(理由についても)その効力が弘前市議会議員の一般選挙が執行された昭和三八年四月三〇日に遡る結果、これまで繰上補充当選人であつた賀山健三が最下位の三六位当選者と更正され、三六位当選人であつた原告高橋繁雄が三七位次点者となるところ、同年六月一四日上位当選者小山内淳四郎が死亡しているのであるから、当然原告高橋繁雄が繰上補充当選人として更正されるのが至当と考えられる。

しかるに被告委員会が前掲のような裁決をしたのは違法であつて、取消さるべきである。

2、仮りに右原告の主張が認められず、被告委員会の裁決が正当であるとしても、この裁決は左記の理由によつて取消さるべきである。

即ち、右裁決は昭和三八年四月三〇日執行の弘前市議会議員の一般選挙における原告の得票数が一、三二一票で三七位であるとの認定によるものであるが、右確定判決の審理の対象となつていないものの中

(イ)  第一開票所(弘前市時敏小学校)において「たかはし」と記載されてある票が落選候補木村鴻の有効得票に算入されている事実があるが、これは原告高橋繁雄の有効得票である。

(ロ)  同開票所において「しけお」と記載された票が当選人藤田武雄、三上武雄に按分されているが、これも前同様である。

(ハ)  第二開票所(弘前市朝陽小学校)においては「たかは・し」と記載された票が落選候補者高谷正二の得票に混入されているが、これも明らかに原告高橋繁雄の得票に算入さるべきである。

(ニ)  第三開票所において「しけお」と記載された票が斎藤正雄の有効得票とされているが、これは第一字は「し」であつて「ま」ではないし、又第二字は「け」であつて片仮名の「サ」ではない。従つてこれも原告高橋繁雄の有効得票とすべきである。

(ホ)  その他各開票所共「たかはす」「タカハス」と記載されて原告高橋繁雄の有効得票とすべき票が無効票とされている事実がある。

したがつてこれらを合算すれば、原告高橋繁雄の有効得票は一、三二七票以上に達し、最下位当選人三六位賀山健三に比し五票以上多い有効得票があることとなる。しかるに被告委員会が前記主文のような裁決をしたのは不当である。

四、右1、2いずれの場合も被告委員会の裁決が不当であるから、これが取消を求めるため公職選挙法第二〇七条により訴を提起するものである。」と述べ、

被告は、答弁として、

「一、原告の請求原因第一項及び第二項の事実は認める。

二、請求原因第三項の主張につき

1、公職選挙法第二一九条は、行政事件訴訟法の規定中選挙関係訴訟に準用しない部分を規定したものである。しかるに右条項には行政事件訴訟法第三三条第二項及び第三項の規定を準用しないとは定められていないから、被告委員会が右訴訟法の条項に従い、本件裁決をしたのは当然であり、この点に関する原告の主張は理由がない。

また本件の前提事件である昭和四〇年(行ツ)第七〇号上告人被告委員会、被上告人石山栄に係る事件について上告代理人弁護士荻原博司から提出した上告理由書第二点において、本件については行政事件訴訟法第三三条第二項の規定が準用さるべきことを主張した。これに対し最高裁判所第三小法廷は判決理由において「右訴訟において出訴者が当選無効の宣告を求めず、その申立を決定裁決の取消にとどめた場合においても、判決によつて当選無効の理由が認められたときは、その判決の確定次第右委員会は改めて判決の趣旨に従い特定の当選人の当選無効の決定裁決をなすべきものと解されるから、かかる判決によつても当選訴訟としての所期の目的を達成できないものではない。」と判示している点からすれば上告代理人の主張が容認されたものと判断される。

次に小山内淳四郎死亡に伴う繰上補充の問題は、原告主張(請求原因第一項の2)の経過によつて、被告委員会の裁決に基づき市選挙会が昭和三八年一二月二七日繰上補充当選人を賀山健三とする旨の更正決定をなし、これが確定して既に終結しているから、原告高橋繁雄を繰上補充することはできない。

しかして被告委員会が昭和四〇年一二月二一日昭和四〇年裁決第一号をもつて昭和三八年六月五日弘前市選挙管理委員会の棄却決定を取消し、当選人高橋繁雄の当選を無効とする本件裁決をしたのは御庁昭和三八年(ナ)第三号弘前市議会議員一般選挙の当選の効力に関する訴願裁決取消請求事件につき昭和四〇年一月二五日なされた判決に基きその順位を決定したものであるから、何らの違法はない。

2、請求原因第三項2の事実は否認する。」と述べた。

理由

一、(当事者間に争いのない事実)

昭和三八年四月三〇日弘前市議会議員の一般選挙(定数三六名)が執行され立候補者五七名中原告高橋繁雄が三六位最下位当選人となり、訴外賀山健三が三七位次点者、同石山栄が三八位次々点者となつたが、同年五月七日選挙人高谷進外二名より異議の申出がなされ、弘前市選挙管理委員会は調査の結果三七位石山栄、三八位賀山健三と変更したが、三六位最下位当選人原告高橋繁雄の当選の効力に影響なしとして右異議申出を棄却したこと、よつて同訴外人らは更に同年六月二四日被告委員会に審査の申立をなし、被告委員会は調査の結果三七位賀山健三、三八位石山栄と変更したが、前同様三六位原告高橋繁雄の当選の効力に影響なしとして同年八月二八日右審査申立を棄却したこと、右裁決に対し訴外石山栄は被告委員会を被告として仙台高等裁判所秋田支部に訴訟を提起し、同庁昭和三八年(ナ)第三号事件として審理の結果、同裁判所は昭和四〇年一月二五日三六位賀山健三、三七位高橋繁雄、三八位石山栄との理由により、被告委員会が先になした審査の申立を棄却した裁決を取消し、該判決はその後昭和四〇年一一月三〇日上告棄却の判決により確定したこと、これより先二二位当選人小山内淳四郎が昭和三八年六月一四日死亡したため弘前市選挙会は当時の次点者石山栄を繰上補充当選人と決定したこと、これに対し賀山健三から異議申出がなされ、弘前市選挙管理委員会は同年八月一五日これを棄却したため、同人はさらに被告委員会に審査申立をなし、被告委員会は同年一〇月九日右申立を認容する裁決をなし、右裁決は出訴がなく確定したので、弘前市選挙会は同年一二月二七日賀山健三を繰上補充当選人と更正決定したこと、以上の経過の後被告委員会は昭和四〇年一二月二一日前記確定判決に基き弘前市選挙管理委員会が昭和三八年六月五日高谷進外二名がなした昭和三八年四月三〇日執行の弘前市議会議員一般選挙の当選の効力に関する異議申出を棄却した決定を取消し、右選挙において当選人と決定した高橋繁雄の当選を無効とする旨の本件裁決をなしたことは当事者間に争いがない。

二、原告は、公職選挙法第二一九条によつて準用される行政事件訴訟法第三三条は、本件の如く当選の効力に関する取消判決については、同条第二項、第三項の準用がないものというべく、公職選挙法第九六条の規定により直ちに選挙会を開いて当選人を更正決定すべきものであるから、被告委員会が前記確定判決に基き原告の当選を無効とする宣告をした本件裁決は取消さるべきであると主張する。よつてまずこの点について判断する。

行政事件訴訟法第三三条第一項は行政処分取消判決は該事件につき当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束する旨規定する。したがつて本件確定判決は被告委員会はもとより弘前市選挙管理委員会および選挙会を拘束することとなる。ところで公職選挙法第九六条によれば、同法第二〇七条による地方公共団体の議会議員の当選の効力に関する取消判決が確定し、特定の当選人の当選が無効となつたときは選挙会において直ちに他の候補者から当選人となり得る者があるときはこれを当選人として更正決定すべく、これをなし得ないときは再選挙を行うべき旨規定する。そして本件確定判決のように、主文においては単に原裁決の取消のみを宣言し、特定候補者の当選無効は理由中において判断したに過ぎない場合でも、裁決庁が改めて裁決するを待たず、直ちに右選挙法第九六条により処理すべきものとの見解をとるとしても、前記争いのない事実によれば、被告委員会の昭和四〇年一二月二一日付裁決は本件確定判決に従い、該判決に牴触する弘前市選挙管理委員会の決定を取消し、高橋繁雄の当選無効の宣告をなしたに過ぎず(前記見解に従えば無用の裁決をしたこととなる)、その内容において何ら判決の効力に牴触するところはなく、該裁決により原告の法的地位が影響されることはないから、原告はこれが取消を求める利益を有しないものといわなければならない。

三、次に原告は、前記確定判決によれば繰上補充当選人であつた賀山健三が三六位最下位当選人とされ、三六位当選人であつた原告高橋繁雄は三七位次点者とされているところ、判決の効力は該選挙の執行された昭和三八年四月三〇日に遡る結果、同年六月一四日死亡した上位当選人小山内淳四郎の繰上補充当選人は当然原告高橋繁雄たるべきところである。したがつて原告高橋繁雄の当選を無効とした被告委員会の昭和四〇年一二月二一日の裁決は取消さるべきであると主張する。よつてこの点について判断する。

当選の効力に関する訴訟は、選挙会が当選人と決定したその当選人の当選の効力を争い、その当選が無効であることを主張する訴訟であつて、県選挙管理委員会の裁決が取消され、特定の当選人の当選が無効と判断され該判決が確定したときは、結局において公職選挙法第九六条により当選人の決定を更正すべきところであるが、右更正決定は先の選挙会の決定の更正であつて、本来当選人たりし者を当選人と定める手続である。一方繰上補充当選の制度は、正当な当選人が一定の事由により欠けたり、当選を失つたりした場合に、落選者中より便宜当選人を補充するものであつて、前者の当選決定という行政処分とは別箇の根拠に立つ別異の処分である。したがつてまた、当選の効力に関する訴訟においては選挙会が当選人と決定した当時の当選人の当否を判断するにすぎず、繰上補充当選の当否は直ちに右訴訟に影響を及ぼすものではない。したがつて、原告高橋繁雄が繰上補充当選人たるべき旨の主張は当該手続における別途訴訟等において主張するは格別、被告委員会が前記確定判決の趣旨に従い、高橋繁雄の当選を無効と宣告し、原告高橋繁雄の繰上補充当選の関係を考慮しなかつたとしても、これを理由に本件裁決の取消を求めることは、許されないところである。

四、次に原告は、被告委員会の裁決が正当であるとしても、前記確定判決の審理対象となつていない投票中無効票等とされたもののうちに原告高橋繁雄の有効得票が存在する旨主張する。よつて判断するに、前記争いのない事実によれば、訴外高谷進外二名から原告高橋繁雄の当選の効力に関し申立てられた異議及び審査申立は原告の得票数を争うものであつて、その算定に違法があると主張するものであること、被告委員会が原告高橋繁雄の当選の効力に影響なしとして審査申立を棄却した裁決に対し、訴外石山栄が右裁決取消の訴訟(当庁昭和三八年(ナ)第三号)を提起し該訴訟の結果次点者賀山健三の得票数が原告高橋繁雄の得票数より多いとの理由で被告委員会の裁決を取消し、原告高橋繁雄の当選を無効とする判決がなされ、その後該事件は昭和四〇年一一月三〇日上告棄却によつて既に確定したことが明らかである。

したがつて、右訴訟は最下位当選人たりし原告高橋繁雄の得票数を争う当選の効力に関する争訟であり、原裁決を取消す判決がなされたのであるから、爾後右確定判決の内容に反する主張、判断をなし得ないものであるところ、右確定判決は行政事件訴訟法第三二条により、当事者間に限らず第三者に対しても効力(対世的効力)を有するものであるから、原告高橋繁雄が右訴訟に関与したと否とにかかわらず、また右事件で審理の対象とならなかつた投票中原告高橋繁雄の有効票と認め得べき票が存在すると否とにかかわらず、原告の右主張は前記確定判決の効力に牴触するものとして許されないところである。

五、そうすると原告の本訴請求は、結局理由がないことに帰するから棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩永金次郎 新海順次 緒賀恒雄)

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